戦場のファミリーマート【ノルマンディー店】

戦場のファミリーマート【ノルマンディー店】

ストーリー
第二次世界大戦中、戦時下に於ける補給地点の役割を果たすべく、また疲れた兵士のオアシスとなるべくファミリーマート ノルマンディー店を出店

これは、ノルマンディー店員の物語
 

真夏の暑苦しく湿った空気と、満天の星が夜空を彩るある夜

カウンターの上に積まれた、数え切れないほどの手紙の山
それは、俺と、俺の家族を繋ぐ絆

妻の字は相変わらずクセがあって読みにくい。
彼女はそれを頑なに否定したがっていたが・・・

手紙の内容は、いつもどうでもいいような内容ばかりだった。
庭で育てている家庭菜園の自慢話に始まり、
それから娘の学校での話が延々と続くだけのものだった。

今年もセージが咲いただとか。娘が男を連れてきただとか
(まだ小学生だろうに・・・)
本当につまらない話ばかり。
それでも俺は、そんなどうでもいい手紙を、何度も読み返す。
そんな向こうにいる家族の何気ない普通の日常を
しみじみと噛みしめながら、故郷の家族の事を思い出していた。

突然、自分の肩ぐらいの物陰が動いた
次の瞬間、暴力的な破壊音と銃声が、響き渡たった。

俺は、とっさに物陰に身を隠して難を逃れた。
視界に入ってくる先ほどまできちんと並べられた商品が
グチャグチャになって床に散らばっている

突然の銃声は、一瞬で店内を殺伐とした空間に姿を変えた。
銃声が止み、張り詰めた空間のまま、沈黙が流れた。
焦げ臭い硝煙でむせかえる咳を喉に押し込め
目をこらすと、視界に入ってきたのは
銃を持つまだ自分の子供と同い年ぐらいの少女

慣れていない手つきで銃口を構える少女の手は、
ガクガク震えている。

震える少女を見ていると、銃が怖くないわけではないが、
少女を見ていると不思議と落ち着いてきた。

逃げようとも脳裏に浮かんだのだが、
まったく真逆の行動に出た。

どうしてそういう行動に至ったのかは、
自分でもよくわからない。

この状況では、どちらにしろ逃げることはできないという、
打算もなかったわけではない。

けれど・・・
妻なら、あのお人好しな妻なら、きっとそうしただろうと、
漠然とそう思った。

『いらっしゃい』俺の呼びかけに、
少女はあからさまに驚いていた。
それはそうだろう。明らかにおかしい。

その少女は年相応の怯えた表情を浮かべながら、
必死の表情で俺に銃を向けている。

おそらく面と向かって誰かに銃を向けた事
なんてないのだろう。

それは、この戦争下においては幸福なのか、不幸なのか
少女の瞳が大きく揺れる。

今にも泣きだしてしまいそうな感情を、
必死で隠そうとする少女の表情は固く
その姿はあまりに脆く見えた。

俺は、カウンターに積まれた手紙に目を向けながら、
静かに少女に語りかけた。

『そんな泣きそうな顔で人を殺そうとするな』
ただその言葉は、自然と口からこぼれおちた。

しかし、彼女の目に映るのは、明確な拒絶と、
あてのない憎悪だけだった。

そんな悲しく歪んだ表情を正面に受けながら、
俺はふと、三年前の出来事を思い出していた。

その年、俺は、友人の頼みで、長期に渡って家を出る事が
決まり、事情を妻に相談していた。

その最中、今まで一度もわがままなんて言わなかった娘が、
初めて『行かないで』と泣きながらしがみついてきた。

あまり感情的ではなく、口下手で不器用なはずの
娘のわがままの前に、俺はただ困惑するしかなかった。

今にして思う。
あの時、たった一言でも『大丈夫、必ず帰ってくるから』
と声を掛けて抱きしめてあげていれば良かった

家を出る時、俺は妻と一つだけ、約束をした。
『娘を悲しませたら承知しませんよ、あなた。
・・・だから、絶対に帰って来てください』

『・・・わかっているよ、必ず帰ってくる』
そう言って俺は、妻をぎっと抱きしめた。

月が昇るノルマンディの夜の空に、
乾いた一発の銃声が鳴り響いた。

次の瞬間、鈍い痛みが腹部に走った。
あっ・・・目の前が赤くなる
俺はその場にうずくまった。
全身が火傷になったように熱い

駆け寄ってくる少女の姿がおぼろげに見える。
耳元で何かを叫んでいるようだが、殆ど聞き取れない。

痛い・・・怖い・・・
あぁ・・・やっぱり、まだ死にたくない。
やり残した事は、まだまだ沢山ある。

・・・悪いな。お前との約束守れそうにない。
でも、お前なら、きっと俺を許してくれるよな・・・

次第に体から体温が下がっていく
痛みさえすでに、感覚がぼやけ、手足は痺れている
ひどく寒い・・・

俺は、最後の力を振り絞って、身につけたエプロンを剥いだ。
それを傍らの少女に押し付ける

少女はきっと困惑するに違いない。
それでも、父親として、娘にできる事が残っているのなら、
おれは目の前の少女にそれを託したいと思う。
娘と少女がダブって見える

『ただいま・・・』

(誰もいなくなった一軒のコンビニの窓から、あて先のない手紙の束が、夜空へと舞い上がる。それはまるで天使のように優雅に夜空を舞いながら、やがて遥か彼方の空へと消えていった
残された店内には、物悲しい旋律を奏でる入店チャイムだけが、静かにその時を刻んでいた)

水色 了さんの作品を編集加筆致しました。

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